日本文学史 古代・中世篇一 ドナルド・キーン [本]
気軽な気持ちで何気なく手に取ったのに、著者の日本文学を愛する情熱に引きずり込まれて、なんだか全巻読まなければならいような気にさせられてしまいました。といっても、全巻あわせると18巻にもなるから、とりあえず、古代・中世篇は購入しようっと。おそるべし、ドナルド・キーン氏の吸引力。
古代・中世篇一は、古事記から平安時代前期の漢文学まで。特に、山上憶良に対する見方が変わりました。子煩悩なお父さんってだけではなく、社会派だったのね。あとは、空海。“文学史に空海?”って思ったけど、「三教指帰」という戯曲仕立ての著作について、扱われている分量としては少ないながら、その特異性が際立っています。まずは、司馬遼太郎の「空海の風景」を読まないと。あ~、読みたい本が増えていきます。
“憶良は、用語の面でも思想の面でも、この歌から優美さを排除しようとしたかのようである。字余りや字足らずの句があるのも、韻律の規則では拘束しきれないほど詩的衝動が強かったことを思わせる。憶良の言葉から真実が強く響くのは、おそらく表現の美化を拒否したことから来ていよう。”
“憶良の歌に人麻呂の壮麗さはないが、それは、世の中が見えすぎていたからだろうか。”
“輝かしく飾り立てた文章-とくに、自分が自在に使いこなした駢文-を空海がよしとするのは、むき出しの論述より、それが真理を受け入れやすくするからである。理解力の浅い人間でも、快く表現された真理には心をひかれるだろうし、逆に醜い言葉には、内容を十分理解できる教養ある人間でさえ顔をそむけるだろう。”
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