日本仏像史講義(平凡社新書)山本勉 [本]


日本仏像史講義 (平凡社新書)

日本仏像史講義 (平凡社新書)

  • 作者: 山本 勉
  • 出版社: 平凡社
  • 発売日: 2015/05/17
  • メディア: 新書

引き締まった筋肉質の文章がいいです。内容は一般的な仏像史の本と重なるのは当然のこととして、過不足なく、書くべきことは書き、余計なことは書かない。そのストイックな取捨選択に対して平身低頭です。抑制された語り口ながら、たまに著者の熱い気持ちがちらりとのぞいたりして、それにまた心をくすぐられました。
最新の研究から得られた知見も盛り込まれていて、仏像の初心者はもちろん、ディープな仏像好きも満足できる内容だと思います。仏像の写真がみたい場合は、別冊太陽版があります。そして写真をみたら、実物がみたくなり、旅にでる楽しみがまた増えました。

 見たい仏像リスト 
 ・奈良 安産寺 地蔵菩薩立像
 ・京都 東福寺塔頭・同聚院 不動明王坐像
 ・栃木 輪王寺護摩堂 慈眼大師坐像

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天平の甍(新潮文庫)井上靖 [本]

天平の甍 (新潮文庫)

天平の甍 (新潮文庫)

  • 作者: 井上 靖
  • 出版社: 新潮社
  • 発売日: 1964/03/20
  • メディア: 文庫

鑑真が主人公の話だと思っていたら、日本に鑑真を招聘するために奔走した日本人留学僧が主人公でした。日本史の教科書的にはどうしても鑑真一人にスポットライトがあたってしまうけれども、鑑真来日には多くの人間が関わっていたことに思い至りました。前半は天平5年(733)の第九次遣唐使船で入唐した4人の学僧のいきさつ、後半はその1人で20年後、鑑真とともに帰国した普照という人物に沿って物語が進んでいきます。
最初は頭でっかちで共感しずらかった普照ですが、世界を広げ、周りの人物と関わる中で変わっていき、鑑真からの信頼を得るまでになります。英雄を描くのではなく、普通の人間の成長物語。歴史小説というよりも、歴史を舞台とした青春小説です。

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山岳信仰-日本文化の根底を探る(中公新書)鈴木正崇 [本]


山岳信仰 - 日本文化の根底を探る (中公新書)

山岳信仰 - 日本文化の根底を探る (中公新書)

  • 作者: 鈴木 正崇
  • 出版社: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/03/24
  • メディア: 新書

なんとなく近寄りがたい山岳信仰。修験者のほら貝に象徴されるようにちょっとエキセントリックで、見てはいけないもののような気がします。一方で今、流行りのパワースポットは、山岳信仰の場と重なります。この本で取り上げられる山も、出羽三山、大峯山、富士山、立山などなど、まさに現代のパワースポット。今も昔も人を引き付ける山々の魅力ってなんなのでしょう。
そんな興味から手に取ってみたら、内容は予想外に硬くて、パワースポットブームにあやかろうなどという意図は全くありません。専門的な難しい部分が多く、楽しみながら読むという訳にはいきませんでした。でも、なんとなくおどろおどろしくて近寄りがたかった修験道や神がかりのことも研究対象として冷静に解説してくれていて、山岳信仰の実態を知ることができました。


印象に残った言葉

しかし、修験にとっては文字の知識に頼るよりも、重要なことは実践や体験であり、峰入り修行をできるだけ数多く積み重ねることが根本であった。自然の多次元的世界に没入する繊細な感性を持った人びとには教義は方便にすぎない。その意味で文字は無用であり、文書による過去の復元は限界がある。その本質に迫るには、かつての修行者が行法を重ねたであろう場所をひたすら歩き、自らが現場に立って追体験するしかない。社寺や祠のような建造物よりも、建っている場所自体が重要であった。そこには「場所の力」がある。─ 289ページ
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日本人と日本文化-対談(中公文庫)司馬 遼太郎、ドナルド・キーン [本]


日本人と日本文化―対談 (中公文庫)

日本人と日本文化―対談 (中公文庫)

  • 作者: 司馬 遼太郎 ドナルド・キーン
  • 出版社: 中央公論社
  • 発売日: 1996/08/18
  • メディア: 文庫

予定調和な対談ではなく、スリリングでエキサイティングな言葉の応酬が続いていきます。異種格闘技みたいに見たこともない技の掛け合いがあって、読み応え十分でした。日本人や日本文化を語らせたら右に出るものがいないと思われる司馬遼太郎氏。だけど所詮、日本人だから日本を客観視するのは難しいということが露見してしまって、司馬氏の面目もつぶれ気味。ドナルド・キーン氏は司馬氏をも舌を巻く博学な知識を持ちつつ、それを西洋人や西洋文化と比較して定義したり、対比して位置づけたりしていきます。私の試合判定はキーン氏の勝利でした。


印象に残った言葉

司馬「つまり日本には仏教というものがあるけれども、おっしゃったように、東南アジアはほんとうに仏教ででき上がっている。仏教というものは、生活の仕方から、身動きから手足の上げ方まできめている。それがつまり仏教というものであって、仏教は日本に来たけれども、建物は立派にできたが、それはみな美になってしまって、ほんとうには宗教とか哲学になっていないんじゃないか。」─ 51ページ

司馬「信長はいま生きていたら、芸術家か何かになったんじゃないでしょうか。あのときだから、武人になってしまいましたれども。」─ 81ページ

キーン「要するに私の考えでは、善人というものは怪しいという考えがいつもあった。自分は善人だと思い込んでいるような人は、いちばん極楽に行けそうもないとはじめから思っていたもんですから(笑)。」─ 133ページ

司馬「しかし、われわれは将軍というものに、それほど政治家であることを期待していない。当時も後世のわれわれも期待していないわけです。政治家として劣等生であるのも、むしろ将軍様でならば当然のことだくらいに思って、その政治的モラルを云々しない。」─ 184ページ

キーン「いくら自分は貴族で、いくら自分が風流人だからといっても、自分の国の成敗は自分と深い関係があると、中国人なら思ったでしょうが、日本では、芸術さえよければ、そういうような無責任な態度を許すことができたのです。」─ 189ページ

キーン「平安朝の文学の多くの傑作は、女性によって書かれましたね。そして男性の書いたものよりも、女性によって書かれたもののほうが普遍性があると、私は思うのです。女性は外の世界をあまり見ないで、自分の内面を見つめる。そして人間の内面はそんなに変わっていないのです。嫉妬はあらゆる国にあるものだし、恋愛もそうだし、女性が感ずるような感情は、国を問わず、時代を問わず、みな共通だと言ってもいいでしょう。」─ 219ページ


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日本史の森をゆく-史料が語るとっておきの42話(中公新書)東京大学史料編纂所 [本]


日本史の森をゆく - 史料が語るとっておきの42話 (中公新書)

日本史の森をゆく - 史料が語るとっておきの42話 (中公新書)

  • 作者: 東京大学史料編纂所
  • 出版社: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/12/19
  • メディア: 新書

東京大学史料編纂研究所の研究員42名がそれぞれの専門分野の逸話を綴ったアンソロジー。同じ趣向で書かれた奈良文化財研究所の「奈良の寺-世界遺産を歩く(岩波新書)」が面白かったので、手に取ってみました。「見る」文化財に対して、史料は「読む」もの。研究の題材としては、文化財と比べるとどうしても地味な印象があります。それでも親しみやすい話題で史料に対するイメージも少し変わりました。事情のはっきりしない日記や手紙を読み解いたり、裁判の記録から当時の世相がわかったり、なかなかスリリング。源頼朝が岩窟信仰を持っていたことや、足利義教が恐怖政治を行っていたなんて知らなかったなぁ。
この本を読んで、高校時代、日本史には興味があったのにもかかわらず「史料集」を読むのがひどく苦痛で、結局、日本史の点数がちっとも上がらなかったことを思い出しました。大人になって日本美術を好きになって、そこから日本史を学び直し中。大嫌いだった史料もこうやってよい先生に巡り合えれば、興味深く読めるのですね。

奈良の寺 ― 世界遺産を歩く (岩波新書)

奈良の寺 ― 世界遺産を歩く (岩波新書)

  • 作者:
  • 出版社: 岩波書店
  • 発売日: 2003/06/21
  • メディア: 新書



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仏像の顔-形と表情をよむ(岩波新書)清水眞澄 [本]


仏像の顔――形と表情をよむ (岩波新書)

仏像の顔――形と表情をよむ (岩波新書)

  • 作者: 清水 眞澄
  • 出版社: 岩波書店
  • 発売日: 2013/09/21
  • メディア: 新書

初心者向けの分かりやすい仏像解説本です。仏像のパーツの中でも「顔」は一番目につく部分ですし、入り口にするには最適です。でも、仏像好きの私にはほとんど知っている内容ばかりで物足りませんでした。書いてあることも当たり障りのない一般論が多く、著者の好みや持論はほとんどありません。安心して読めるけれど、退屈に感じてしまいました。たまにこういう本を読むと、愛読する白洲正子氏の随筆がいかに仏像に対する偏愛にあふれているのかが再認識されます。

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古典夜話:けり子とかも子の対談集(新潮文庫)円地文子、白洲正子 [本]


古典夜話: けり子とかも子の対談集 (新潮文庫)

古典夜話: けり子とかも子の対談集 (新潮文庫)

  • 作者: 円地 文子 白洲 正子
  • 出版社: 新潮社
  • 発売日: 2013/11/28
  • メディア: 文庫

いくつになっても女友達との会話はいいですね。白洲正子氏の対談本はいくつか読んでいるけれど、男性相手の固い理詰めの対話とは違って、気ままで楽しいおしゃべりが新鮮でした。光源氏や西行や世阿弥に対してもファン目線。「好き」という言葉が頻出して、根底では高校生がアイドルの話をするのと通じています。古典に造詣が深いお二人だけに、話題があっちへふらふらこっちへふらふらと「好き」が連鎖するのも心地よい。私も女の特権の「好き」を大事にしようっと。


印象に残った言葉

円地:固執するということはほんとうは恐いことだと思いますね…なんによらず。その道を歩き出したら、どうしてもそこから出られなくなってしまうのね。欲が出るでしょうし、執着も出てきますしね…そうすると、広い目をもつということができなくなってしまう…─ 48ページ

白洲:私、世阿弥の言葉のなかで、ずばり能の本質をついているといつも思う言葉を憶い出すんですけど、それは文章のことでも通じることですけど…自分は動いてはいけない、というんです。自分は後ろにいてあやつっていて、つまり自分の分身が、前でいろいろなことを演っている。そのあやつり糸が離れて、いっしょになると駄目だというようなことをいっているんです。─ 151ページ


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たしなみについて(河出書房新社)白洲正子 [本]


たしなみについて

たしなみについて

  • 作者: 白洲 正子
  • 出版社: 河出書房新社
  • 発売日: 2013/08/12
  • メディア: 新書

ごくごく短いエッセーが57編。初出は1948年、白洲氏40歳前、ごく初期の頃の随筆です。本格的な執筆活動はこの20年後。まだ、初々しさが感じられる文章ですが、格言めいた言葉の連なりや古典や美術に通じた話題が後年の著作を彷彿とさせます。


印象に残った言葉

文化的教養の為に、芸術を鑑賞することは止しましょう、人間を観察する事もやめにしましょう。画家が花の中から純粋な花をみつける様に、私たちも芸術や人間の中から、芸術の「芸術」、人間の「人間」をとり出して、「自己」を創造しなくてはならないと思います。─ 186ページ

有閑人種の反対に、日本の農民ほどひまのない人達はありません。彼等は勤勉で、実に感心な人々です。けれども、あまりに早朝から夜おそくまで働く為に、疲れ切って殆ど何も考える事は出来ません。考えないから発達もしません。どうしたらもっと仕事が楽になるか、どんな機械を使ったらもっと能率があがるか、そんな事も解りません。つまり、考えないからひまがない。ひまがないから考えないと云った次第になるのですが、・・・(略)。そういう人達が物を考える事はおろか、健全な娯楽など知る筈もありません。─ 41ページ


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楽園のカンヴァス(新潮文庫)原田マハ [本]


楽園のカンヴァス (新潮文庫)

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

  • 作者: 原田 マハ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/06/27
  • メディア: 文庫

ルソーは大好きだから、期待は大きかったのです。でも、どうしても登場人物に感情移入できませんでした。ティムはルソーを愛するキュレーターという設定なのに、偉くなりたいという出世欲にまみれていてるし、織絵もキャラクターが定まらず、かたくなで無愛想な学者肌だったかと思うと、突然、女性性が前面にでてきたり。ミステリーの要素もあまりに偶然が多すぎるし、謎の数が無駄に多すぎて、こちらの気持ちは冷めていくばかりでした。期待が大きすぎたのかもしれませんが、ちょっと残念な1冊でした。
ストーリーとは関係なく面白かったのは、花形キュレーターには美術館の支援者やコレクターの夫人たちを夢中にさせる色気が必要だ、という業界話。確かに日本の美術館や博物館の学芸部長さんも魅力的な男性が多いのです。ミステリーとは違うけど、ひとつ謎が解けました。


印象に残った言葉

ひょっとすると私は、アートばかりを一心にみつめ続けて、美と驚きに満ちたこの世界を、眺めてはいなかったんじゃないのだろうか?─ 233ページ

自分がやりたい展覧会を完璧に実現させるためには、美術に関する知識やセンス以上に、人海戦術と交渉力、そしてときには色気が必要になってくる。肉体的な色気ではなく、夫や若いツバメにはない知的な色気が。─ 72ページ



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死にとうない(新人物文庫)堀和久 [本]


死にとうない (新人物文庫)

死にとうない (新人物文庫)

  • 作者: 堀 和久
  • 出版社/メーカー: 新人物往来社
  • 発売日: 2010/06/07
  • メディア: 文庫

おととし、出光美術館の展覧展で知った江戸時代後期の禅僧、仙厓さんの生涯を描いた小説。若いころは昇進や名声への業が深く苦悩したんですね。展覧会でユーモアあふれる禅画にほっこりしたのを思い出して、より読書が進みました。歴史小説ですが、ライトノベルのような文章で、サクサク読めます。
小説とは関係ありませんが、仙厓さんが若いころ修業したという、武蔵国永田(現・横浜市)の東輝庵(とうきあん)。全国から学僧が集まる修行の場だったそうですが、今も宝林寺というお寺があるそうです。いつか機会があったら行ってみたいな。

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