『坊っちゃん』の時代/秋の舞姫(第2部)(双葉文庫)関川夏央、谷口ジロー [本]


『坊っちゃん』の時代 (双葉文庫)

『坊っちゃん』の時代 (双葉文庫)

  • 作者: 関川 夏央
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2002/11/12
  • メディア: 文庫

『坊っちゃん』の時代 (第2部) (双葉文庫)

『坊っちゃん』の時代 (第2部) (双葉文庫)

  • 作者: 谷口 ジロー;関川 夏央
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2002/11/12
  • メディア: 文庫

(第1部)
どこまで事実で、どこからがフィクションなんだろう。全部が本当ということもないのだろうけど、年月日まで記されるエピソードが全くの嘘とも思えない。そんなことが気になって、なかなか作者が伝えたいことに思いをめぐらすことができませんでした。
(第2部)
どこまで本当のことなのか分からないので、もうフィクションだと思って読むことにします。男のエゴの犠牲になったエリス。エリスがこれでもかというほど賢く美しく心清らかに描かれているので、森林太郎の狡さがより引き立ちます。フィクションだと思っていても、森鴎外のイメージは大幅にダウンしてしまいました。


印象に残った言葉

赤シャツと野だいこは中学校を
すなわち日本そのものを牛耳りつづけるだろう
坊ちゃんも山嵐も敗れたのだ
ーしかし
坊ちゃんには帰るべきところがあった
それは清のいる家 すなわち
反近代の精神のありかであった
─ 第1部 242ページ



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天地明察(角川文庫)冲方丁 [本]


天地明察(上) (角川文庫)

天地明察(上) (角川文庫)

  • 作者: 冲方 丁
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/05/18
  • メディア: 文庫

天地明察(下) (角川文庫)

天地明察(下) (角川文庫)

  • 作者: 冲方 丁
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/05/18
  • メディア: 文庫

好きなことを仕事にできて、周囲にも恵まれて、困難を乗り越えて、最後に大きな成功を得る、というサクセスストーリー。もちろん出来過ぎなんだけど、小説の中ぐらい、夢見させてほしいので、とても安心して読めました。主人公の春海さん、江戸時代の男にしては、ちょっとめそめそと泣きすぎじゃないか、とも思いましたが、そんなところも現代っぽくってかえって良いように思います。本屋大賞ははずれがないですね。

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小澤征爾さんと、音楽について話をする(新潮文庫)小澤征爾×村上春樹 [本]


小澤征爾さんと、音楽について話をする (新潮文庫)

小澤征爾さんと、音楽について話をする (新潮文庫)

  • 作者: 小澤 征爾
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/06/27
  • メディア: 文庫

クラシックなんて門外漢の私でも楽しく読み進めることができました。なにしろ登場人物が超一流。小澤氏は、バーンスタインのことはレニーと愛称で呼ぶのに対して、カラヤンは必ず「先生」をつけて呼ぶ、なんてことだけでも面白いし、小澤氏だからこそ知るグールドのエピソードも興味津々。語られる専門的な内容はよく分からなくても、トップランナー同士の心の通じ合いが心地よく感じられ、そこに流れている時間や場所が奇跡的なことだということが自ずから理解されました。
でも、クラシック好きの人が読んだら、このうえない至福の1冊なのだろうなぁ、と思うとちょっと悔しいです。


印象に残った言葉

(小澤)僕はそれで、そのレコード屋さんにいる間に思ったんだけど、この対話というのはマニアのためにはやりたくないんですね。マニアの人には面白くないけど、本当に音楽の好きな人たちにとって、読んでいて面白いというものにしたい。そういう指針で僕としてはやっていきたいですね。─ 111ページ

(小澤)でも不思議なのは、彼(グールド)が死んじゃったあと、そういう姿勢を引き継いで発展させるような人が出てこなかったことです。ほんとうに出てこなかった。やっぱりあの人は天才だったのかな。彼の影響を受けた人はいるかもしれないけど、彼みたいな人は出てこなかった。だいいちに、あそこまで勇気のある人がいないでしょう。─ 88ページ

(小澤)クリムトも美しくて緻密なんだけど、見ていてなんかこう、狂ってるじゃないですか。
(村上)うん、たしかに尋常じゃないですね。
(小澤)狂うことが大事というか、倫理性がないというか。道徳とかそういうことを凌駕している部分があります。
─ 254ページ



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自分の体を好きになりたい つれづれノート23(角川文庫)銀色夏生 [本]


自分の体を好きになりたい  つれづれノート23 (角川文庫)

自分の体を好きになりたい つれづれノート23 (角川文庫)

  • 作者: 銀色 夏生
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2013/03/23
  • メディア: 文庫

若いころは崇め奉っていた銀色夏生さん。だんだん距離を感じるようになり、全く共感できなかったり、さらには嫌悪感さえ覚える部分があったりします(マロンのくだりとか、動物好きにはちょっと…)。いつまで読み続けるのか、このまま惰性でいくのか、どこかで見切りをつけるのか、思案してしまうのですが、グッとくる一節がある限りは続けていくのかな。


印象に残った言葉

だからあまり難しく複雑に暗く考えずに、できるところで手を打ちましょう(笑)。深刻にならず、受け入れる。解決は先に送って、とりあえず今日を味わいましょう。─ 63ページ

人と自分は違う。徹底的に違うのだということをもっと冷静に見つめれば、他人へ要求することの不毛さを感じると思う。そして、自分へ要求することの豊かさも。─ 253ページ



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イメージを読む(ちくま学芸文庫)若桑みどり [本]


イメージを読む (ちくま学芸文庫)

イメージを読む (ちくま学芸文庫)

  • 作者: 若桑 みどり
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2005/04
  • メディア: 文庫

目から鱗が落ちっぱなしでした。芸術は感覚で理解するものではなく、思想的な理解がなされるべきものだ、という主張が根本にあり、それを丁寧にひも解いてくれる1冊です。絵画鑑賞が趣味の私ですが、感覚だけで絵の好き嫌いを判断してしまいます。自分の教養が足りないだけなのですが、それを良しとしていてはもったいない。思想的な理解によって、芸術を何十倍も楽しむことができることを実際の美術作品の読み解きによって教えられました。


印象に残った言葉

芸術のコミュニケーションは、知性ばかりではなく、感性をもふくんでいますから、知識ばかりでなく感動もあたえ、人格の全部を動かします。その点で、あらゆる人間のコミュニケーションのなかで、もっとも複雑で、もっとも深く、もっとも総合的なものだといえるでしょう。─ 240ページ
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ハプスブルク家/ハプスブルク家の女たち(講談社現代新書)江村洋 [本]


ハプスブルク家 (講談社現代新書)

ハプスブルク家 (講談社現代新書)

  • 作者: 江村 洋
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1990/08/10
  • メディア: 新書
ハプスブルク家の女たち (講談社現代新書)

ハプスブルク家の女たち (講談社現代新書)

  • 作者: 江村 洋
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1993/06/16
  • メディア: 新書

いくら世界史音痴でも、ハプスブルク家といえばマリア・テレジアということぐらい知っています。でもそれだけ。ミュージカルになっているエリーザベトでさえ、ハプスブルク家の皇后だとは知りませんでした。それが功を奏して、知らないことばかりで楽しめました。
700年もの長期間、ヨーロッパで覇権を握ってきた一家。素人考えで、やり手で強欲で傲慢なイメージを持っていましたが、実態は正反対。神聖ローマ帝国の国王を継承したハプスブルク家の君主たちは、神に選ばれし一族として勤勉にその役割を果たし、ときにお人好しが馬鹿を見るような憂き目にも会っているのでした。
そんなハプスブルク家に対する著者の江村洋氏の深い敬愛が感じられます。それに江村洋氏の文章はとても読みやすい。決して簡単な文章ではなくて、難しい言い回しもでてくるのですが、どんどん引き込まれて、頭が良くなったような錯覚まで起こしてくれます。名著ってこういう本なんだろうな、と思いました。


印象に残った言葉

いずれの君主にもたくましい行動力が欠け、見たところではパッとしない。中庸を重んじ、決して無理な戦を望まない。絶えず強敵に襲われながらひたすら忍耐して、敵が滅びるのを待つ。惨めな人生を送りながら、最後には勝利を収めるといった生き方が、ハプスブルク家の伝統となった。─ ハプスブルク家の女たち 134ページ

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ソロモンの指環-動物行動学入門(ハヤカワ文庫)コンラート・ローレンツ [本]

ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)

ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)

  • 作者: コンラート ローレンツ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1998/03
  • メディア: 文庫

ノーベル賞受賞の動物行動学者がみずから飼った動物たちの生態をユーモアを交えながら描いてくれるのだから、面白くないはずがない。人間も動物も変わらないのだなぁ、と思いました。最近、人間と動物について考えさせられる本が続いています。私は生まれ変われるのなら、人間よりは動物がいいなぁ。


印象に残った言葉

この順位の成立は、ただ個々の鳥の体力ばかりできまるのではない。個人的な勇気とか、エネルギーとか、さらにあえていうならば自信とかも、おなじくらい重要な規準となる。─ 93ページ

社会性鳥類におけるこのような順位は、おそろしく保守的なものである。ある序列にいるものは、たとえその序列がただ「道徳的に」なりたっているものであったにせよ、それをきわめて長い間守っている。そして、鳥たちがたえずたがいに接触を保っているかぎり、軽々しく自分より上位のものに反抗したりしようとはしない。─ 93ページ

むしろ私はその逆に、どれほど多くの動物的な遺産が人間の中に残っているかをしめしているにすぎないのだ。─ 99ページ



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鳥の仏教(新潮文庫)中沢新一 [本]


鳥の仏教 (新潮文庫)

鳥の仏教 (新潮文庫)

  • 作者: 中沢 新一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/06/26
  • メディア: 文庫

正式な経典ではなくて、チベットで一般の人たちに読み継がれてきた物語のようなものを中沢新一氏が翻訳した本です。カッコウに姿を変えた観音菩薩がブッダの知恵について語るという内容。道元の「正法眼蔵」の動物や植物の文字で書かれた経巻というのと通じるものがあります。
あとがきの文章が美しくて、高木正勝さんという音楽家のことを知りました。映画「おおかみこどもの雨と雪」のあの印象的な音楽や耳に残っているCMソングを手掛けられているそう。この本のBGMにピッタリきます。


印象に残った言葉

父王はカッコウの姿になった王子を知って、嘆き悲しんだ。しかし、王子は人間であろうと鳥のような動物であろうと、身体などというものは、自由な心が輪廻する世界に一時の宿を得るためにまとわなければならない衣のようなものであり、それ自体、自由な心を拘束する生存条件のくびきにすぎないことを説いて、悲しみを解いてやった。─ 92ページ


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本当に自分の人生を生きることを考え始めた人たちへ(幻冬舎文庫)銀色夏生 [本]


本当に自分の人生を生きることを考え始めた人たちへ (幻冬舎文庫)

本当に自分の人生を生きることを考え始めた人たちへ (幻冬舎文庫)

  • 作者: 銀色 夏生
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2013/02/07
  • メディア: 文庫

自由な2人。自由すぎてついていけない部分もあるし、硬直した生活を送りがちな自分自身を解放してくれる部分もある。自分のやりたいことを100個書く、というのいいな。やってみよう。


印象に残った言葉

何かをきっかけにまず意識が変わり、それから話す言葉や書く言葉が変わり、行いが変わり、習慣が変わり、生活全体が変わっていく、みたいに。─ 23ページ

本当のマネージメントって、自分のワクワクに水をあげるような管理だと思うんですよね。─ 184ページ

私は説明は下手だし、説明するのが嫌いなんだけど、態度や行動で見せて、それでなんか思ってほしいと思ってる。気づく人は気づく。気づかない人は気づかないんだけど、それでいいの。─ 189ページ



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日本文学史(講談社学術文庫)小西甚一 [本]


日本文学史 (講談社学術文庫)

日本文学史 (講談社学術文庫)

  • 作者: 小西 甚一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1993/09/06
  • メディア: 文庫

ドナルド・キーン氏が絶賛していたので手に取りました。60年以上前の著作とは思えないみずみずしさを保っていることに驚きました。柿本人麻呂の歌が天武天皇の壬申の乱での英雄的行動を目の当たりにしたことから生まれたとか、源氏物語の登場人物は「行為」としての罪よりキリスト教の原罪めいた意識の中にいるとか、西行の歌は白楽天を思わせる、などなど、刺激的な目を見開かされるような私見が盛りだくさん。推理小説もしくは現代社会論を読んでいるような文学史でした。
そうそう、先日読んだ西山厚先生の「仏教発見!」でも印象に残った道元の「正法眼蔵」が空前絶後の表現力と称賛されていました。これはいつか読まなくちゃ。


印象に残った言葉

政治性じたいは、かならずしも叙事精神と矛盾するものではなかろうが、日本のばあいは、シナから知識として受け容れた政治性であり、自民族の内部から湧きあがったものではない。そこに、何か齟齬するものがあり、叙事的表現を薄弱ならしめたのではないか。叙事詩は叙事詩的材料だけから生まれるものでなく、創造的情熱に燃える民族詩人を俟って、はじめて在りうるからである。─ 28ページ

ある「まとまり」がいっしょに沈下するとき、その内の人たちは、自分たちの社会が新しい時代によって変革を要求されているのだとは感じたがらず、むしろ、これまでの在りかたと同様の在りかたを肯定しやすい。─ 87ページ

いわゆる泰平の逸民がそれで、もし個人としての自覚にめざめるならば、おそらく耐えきれない精神的苦痛におし潰されたであろうが、そうした自覚さえもたなければ-とくに田沼時代などは-、けっこう住みやすい御時世であった。─ 159ページ




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