天心が託した国宝の未来(茨城県天心記念五浦美術館)、陶の仏-近代常滑の陶彫(高島屋史料館TOKYO) [美術展]

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天心が託した国宝の未来 -新納忠之介、仏像修理への道
2023年12月9日(土)~2024年2月12日(月・祝)
茨城県天心記念五浦美術館

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陶の仏-近代常滑の陶彫
2023年9月16日(土)~2024年2月25日(日)
高島屋史料館TOKYO

仏像も大好きだし、明治になってからの近代日本美術の成立についてもよく知っているつもりだったけど、新納忠之介(にいろちゅうのすけ、1869~1954)のことも柴山清風(1901〜1969)のことも全く知りませんでした。もう20年ほど日本美術鑑賞を趣味としてきたけど、まだまだ未知との遭遇がある…、うれしくもあり、山の高さにうんざりもします。

新納忠之介は東京美術学校彫刻科を成績優秀で卒業。岡倉天心にみそめられたために、彫刻家ではなく文化財の修復に生涯をささげます。国宝や重要文化財の仏像修理を2000点以上手掛け、ボストン美術館の仏像修理にも赴いたとのこと。仏像の寸法帳や修理の記録ノートは見飽きません。私が拝してきた仏像の多くも新納の手によることが分かり、知られざる偉人に出会った展覧会でした。

一方の柴山清風は常滑陶器学校で陶器の彫刻を学んだ陶彫家。陶彫の仏像自体がマイナーですが、常滑という土地に生まれた清風にとって陶彫仏の制作は自然な流れだったのかもしれません。千体観音の無償配布を発願したり、各地で大型の陶彫仏を制作したそうです。熱海の伊豆山にも興亜観音像という巨大仏があるらしいですが、多くはすでに失われているとのこと。

新納の修復した仏像はこれから何百年も祈りの対象として引き継がれることが確約されているけれど、清風の仏像はいつまで「仏」でいられ続けるのか...。同じ彫刻家としてどちらがいいのでしょう。新納も自分のオリジナル作品を作りたかったのかな。そうだとしても、私は天心に導かれた(狂わされた)新納の仕事に惹かれます。


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パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展(国立西洋美術館) [美術展]

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パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展
ー美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ

2023年10月3日(火)~2024年1月28日(日)
国立西洋美術館

大好きなシャガールが5点も来ていました。せいぜい2点ぐらいかなと思っていたのでうれしさひとしお。あまりの太っ腹にパリのポンピドゥーはどうなっているのかと心配したら、なんと同時期に「仕事するシャガール」という回顧展をしています。2022年にマルク・シャガールの素描127点、陶磁器5点、彫刻7点がコレクションに新たに加わったお披露目らしい。さすが、ポンピドゥー・センター。

いつか新コレクション見てみたいけど、パリは遠いなぁ...なんて思いながら調べていたら、ポンピドゥー・センター、改修工事で2025年末から30年まで休館になってしまうそうです。当初2023年から始まるはずだった工事がパリオリンピック期間中にも開館できるように延期になったそう。来年までに行かないとしばらくはおあずけです。


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繡と織 華麗なる日本染織の世界(根津美術館) [美術展]

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繡と織 華麗なる日本染織の世界
2023年12月16日(土)~2024年1月28日(日)
根津美術館

2024年、コロナ禍も過ぎて久しぶりの迎春と思っていたら、年明けから地震と飛行機事故…。私自身も久しぶりに風邪で発熱し、大掃除もせず、おせちも食べず、ひたすら寝て過ごした年末年始でした。浮かれ気分はなく、静かでほの暗い年始です。
それでも1月の美術館は華やかでおめでたい品々で満たされています。今年がよい年となるように祈りを込めて選ばれた作品たち。吉祥文様の装束にうっとりして、少しだけお正月気分を味わいました。


ご近所の美味
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前から気になっていた根津美術館の向かいにある「天ぷら みや川」。とてもリーズナブルに美味しい天ぷらをいただきました。


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特別展 木島櫻谷 ー山水夢中(泉屋博古館東京) [美術展]

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特別展 木島櫻谷 ー山水夢中
2023年6月3日(土)~7月23日(日)
泉屋博古館東京

泉屋博古館(せんおくはっこかん)の木島櫻谷(このしまおうこく)展は2014年と2018年にも開催されています(2014年の記事)。その時にみた屏風絵「寒月」は忘れられない1枚。竹林の狐に誘われて絵の中に引き込まれるようでした。そんなこともあって、櫻谷といえば動物画のイメージでしたが、今回は山水画や風景画が多く展示されています。動物画や人物画より断然よくて、櫻谷の絵の上手さが際立ちます。

特に耶馬渓を描いた大作「万壑烟霧」は圧巻でした。急峻な崖、もやもやとした空気感、一本一本の木々を墨の一色だけでパノラミックに描き分け、壮大な景色に圧倒されます。渾身の素晴らしい作品。「富⼠⼭図屏⾵」も高貴で険しい富士山の雄姿を写していて、横山大観なんて比べ物にならないほど上手。それでも“俺ってすごいでしょ”といった押しつけがましさを感じさせないのが京都人だなぁと思いました。

大観とは因縁のある櫻谷です。そのために画家としては不運だったといわれているけど、そんなこともないような気がします。京都人の櫻谷にとって東京で(田舎者に)認められることなんてどうでもいいことだったのではないでしょうか。京都のコミュニティーで好きな絵を描き続けることができればよかったのではないかと思います。そんな京都人の余裕と矜持を感じました。


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蔡國強 宇宙遊 ー<原初火球>から始まる(国立新美術館) [美術展]

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蔡國強 宇宙遊 ー<原初火球>から始まる
2023年6月29日(木)~8月21日(月)
国立新美術館

蔡國強(さいこっきょう)は2015年の横浜美術館の展覧会が初見でした(そのときの記事)。作品だけでなくその言葉に強く惹かれたのを覚えています。今回の展覧会もご本人が書いた解説文(わりと長文)が強い支柱となっています。

大きな展示空間の壁際に1980年代の初期作品から順を追って今に至る火薬を使った一連の作品や映像が並んでいます。作品だけでは何を表現したいのかさっぱりわかりませんが、解説文を読むとその背景をうかがい知ることができます。その思考は宇宙まで射程に入った壮大さで簡単には近づけません。ただ、とても人間味のある難解さなのです。だから分からながらフレンドリーに楽しめます。

外見もアーティストというよりは地に足の着いた商売人みたい。魚屋や酒屋の前掛けや鉢巻が似合いそうです。とてつもなく魅力的な人なんだろうなと思います。福島県いわきの人たちとの長年にわたるつながりも心を打ちます。「満天の桜が咲く日」の花火には映像でも度肝を抜かれました。けた違いな規模と美しさ、桜だけでなく津波もイメージさせられます。それを見つめるいわきの人達の笑顔。「火薬」という人を傷つけるために使われる道具も蔡國強の手にかかれば無念の魂を鎮めることができるのです。





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ポール・ジャクレー フランス人が挑んだ新版画(太田記念美術館) [美術展]

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ポール・ジャクレー フランス人が挑んだ新版画
2023年6月3日(土)~7月26日(水)
太田記念美術館

こんなにおしゃれな浮世絵があるなんて初めて知りました。フランスパリに1896年に生まれたポールジャックレー。3歳の時に来日して10代で日本画を学び、40歳前から新版画を発表、太平洋戦争を経て64歳で亡くなるまで日本で暮らしたそうです。まだまだ知らないアーティストとの出会いがあるんですね。

描かれるモチーフはとても型破り。理想化した美人ではなく、旅行先の人物や隣人を男性や老人を含めてキャラクタリスティックに描いています。旅行先はサイパン、グアム、朝鮮、中国…、エキゾチックなくせのある面貌は目を惹きつけるし、パステルと原色の美しい色彩感覚もたまりません。ひどく旅情をかきたてられ、海外に行きたくなります。特に「北風、韓国」の背景に描かれた「北漢山」。この山の連なりをこの目でみたい、できれば登ってみたいとの衝動がふつふつとわいてきました。これまでソウルになんてこれっぽっちも興味がなかったし、「北漢山」の名前も知らなかったのに、不思議です。

後期が始まってから行ったのですが、これは前期も見ないといけない展覧会でした。ひどく後悔しています。そして、絵葉書がほしかったのに「これ!」と思うものがなかったのも心残りです。

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「北風、韓国」


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千四百年御聖忌記念特別展「聖徳太子 日出づる処の天子」(サントリー美術館) [美術展]

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千四百年御聖忌記念特別展「聖徳太子 日出づる処の天子」
2021年11月17日(水)~2022年1月10日(月・祝)
サントリー美術館

2022年の初美術館は去年に引き続きサントリー美術館。1月2日から開館しているのでお正月の恒例になっています。これでもかってほど聖徳太子ゆかりの品々づくし。そのキャラクターイメージは宗教者というよりは政治家(もしくはビジネスマン)。仏教も外交ツールであって人々の救済を目的にしたものだったのかどうか…。だからあまり惹かれないのかもしれません。

私の好きな聖徳太子像は漫画「日出処の天子」(山岸凉子)の厩戸王子。同性愛と自分の霊能力に苦悩するセンシティブな厩戸王子。冒涜といってもいいほどのキャラ設定なんだけど、心震えるストーリーです。その原画が最後のコーナーに展示されていて感激でした。聖なる伝説に彩られた聖徳太子絵伝と一緒に展示しちゃうなんて、サントリー美術館も攻めてますね!(もちろん、ほめ言葉)。



ご近所の美味
お正月といえばすき焼き。ミッドタウン内にある名古屋の精肉店「スギモト」のイートインでいただきました。
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渡辺省亭-欧米を魅了した花鳥画-(佐野美術館) [美術展]

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佐野美術館創立55周年・三島市制80周年 記念
渡辺省亭-欧米を魅了した花鳥画-

2021年7月17日(土)~8月29日(日)
佐野美術館

2021年春に東京藝術大学大学美術館で開催予定だった渡辺省亭展。楽しみにしていたのに緊急事態宣言のため中止となってしまいました。佐野美術館に巡回することを知って、青春18きっぷを使って静岡県の三島に向かいました。

知る人ぞ知るといわれる渡辺省亭。私が初めて省亭を知ったのは2017年の加島美術の企画展でした。小さなギャラリーでの展示で作品は購入できたように記憶しています。それからあれよあれよという間に有名になって、東京・静岡・愛知の美術館をピンで巡回するようになったのだから大出世。当時の作品価格は分かりませんが、万一あの時、購入していたら大儲けできていたのかも。でも当時は「ごく普通の花鳥画」という印象でちっともグッときませんでした。逆にもしすごく気に入った作品があったとしたら、かえって悔しかったかもしれません。

それでも惹かれるものがあったからこそ、遠路はるばる三島までやってきました。柔らかでゆったりとして、精緻なのに余裕が感じられて上品。なにより動物の表情が豊かで愛くるしく、見ているだけで癒されました。「月夜木菟(つきよみみずく)」の迫力満点のトラフズクはまるで熊みたいなお顔と図太い足で今にも獲物に襲い掛かりそう。でもどこかキュートでアニメの主人公みたいです。「雪中鵯図」の鵯(ひよどり)のずうずうしくて小憎らしい表情も目が離せません。リアルすぎずかわいすぎずのバランスが絶妙です。キャラクターがたっていて絵本の挿絵みたい。どんな物語なんだろうと想像が広がります。こんな見方で「花鳥画」を鑑賞したのは初めて。前回はちっともだったのに、今回はグッときっぱなしでした。

省亭はひとつひとつの作品にインパクトがあるわけではないので、こうやってまとめて作品をみるとその魅力に気が付きます。人の眼を一瞬でとめさせる(そしてすぐに飽きられる)絵ではなく、じわじわと惹きつけられてしまう絵です。そんな画風なのはきっと画壇を離れたからではないでしょうか。だからこそ、一時は忘れられてしまったけれども時代を越えて再発見されたのだと思います。それも省亭に気が付いて作品を探し出し展覧会まで開催してしまう目利きの人たちがいるからこそ。よいお仕事に感謝です。

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京(みやこ)の国宝ー守り伝える日本のたからー(京都国立博物館) [美術展]

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京(みやこ)の国宝ー守り伝える日本のたからー
2021年7月24日(土)~9月12日(日)
京都国立博物館

夏の旅行最終目は京博の「京(みやこ)の国宝」展へ。昨春、京都市京セラ美術館のリニューアルオープンに合わせて開催されるはずだった展覧会ですが、コロナの影響で中止となり、1年以上の時を経て京都国立博物館に場所を移して開かれました。

延期と会場変更によって展示品や構成がどのように変わったのかは分かりませんが、いずれにしても個人的には京セラ美術館での展覧会をみてみたかったなぁというのが正直な感想です。というのも、京都人が京のすごさをさりげなく(でも強烈に)見せつけ、私たち田舎者が有難くそれを拝まさせていただく、という楽しみ方をしたかったから。それを最大限効果的に感じられる場所はやはり「京都市」京セラ美術館をおいて他にはありません。所詮、京都国立博物館は「国立」だから京都の自慢するのはお門違いと思ってしまう…まあ自分勝手な言い分ですね。

でも、同じ「京(みやこ)の国宝」展とはいえ、主催が「京都市」から「京都国立博物館」に代わっているし、京都市京セラ美術館のときはなかった企業の協賛が複数入っています(京都由来の会社はなく「京セラ」も入っていません)。そもそも私は京博にはちょっとひねくれた感情を持っているので、なんだか気に入らないのです(そのときの記事①そのときの記事②そのときの記事③)。

そんな心持ちもあり、美術鑑賞歴も長くなってきて初見の国宝も少なかったこともあり、テンションは最後まで上がりませんでした。なんとなくそんな予感はしてたのですが、我ながらもったいないです。


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聖徳太子没後1400年 入江泰吉×工藤利三郎「斑鳩」展(入江泰吉記念奈良市写真美術館) [美術展]

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聖徳太子没後1400年 入江泰吉×工藤利三郎「斑鳩」展
2021年7月10日(土)~8月22日(日)
入江泰吉記念奈良市写真美術館

奈良博の次に向かったのは東大寺ミュージアム。戒壇院の工事期間中、昨年7月から塑造四天王立像(国宝)が仮にお住まいになっています。私が仏像好きになったきっかけが四天王立像のうちの広目天立像。でも今みるとちょっとランクダウンかな。インパクトが強いだけに、何度か見ているうちに慣れてくるのかもしれません。心変わりを認識しました(本当に失礼な言い方で申し訳ありません)。この日は知足院本尊の地蔵菩薩立像も期間限定でいらっしゃいました。ミュージアムはいつの間にかリニューアルオープンしていて、無料ロッカーがなくなっていた…。復活してほしいです。

東大寺ミュージアムを後にして、バスと徒歩で入江泰吉記念奈良市写真美術館へ。工藤利三郎は明治後期から大正期にかけて活躍した仏像写真家の草分けだそうです。火事に焼ける前の法隆寺金堂壁画、無造作に外で撮影された玉虫厨子など貴重な写真が多く、テンションがあがります。一方、入江泰吉が写した田んぼに囲まれた法隆寺の風景は今となっては宅地開発でなくなってしまいました。一気にセンチメンタルな気分になってしまうのでした…。

この後に法隆寺に行く予定なのですが、私の理想の法隆寺周辺の風景は写真の中にしかないのです(そのときの記事)。戒壇院の広目天にしても法隆寺周辺の風景にしても、すべてのものは移り変わっていくんですよね。


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