蔡國強展 帰去来(横浜美術館) [美術展]
2015年7月11日(土)~10月18日(日)
横浜美術館
なにかのネジが「ギリリ」と音を立てて巻き上げられるような力を感じました。作品数は少ないですが、訴えてくるものが大きすぎて、とてもとても受け止めきれません。心打つドキュメンタリーをみた後のよう。「火薬」という人を傷つけるためにも使われる道具が、ここでは美しく繊細な形を生み出します。軽々と壁を越え、概念を変えてゆく蔡國強とは一体何者なのでしょう。
彼自身、ビデオの中で「アートは時空のトンネル」と表現していた言葉が印象的です。壁を超えるには、跳躍力がなくてもトンネルがあればだれでも通ることができる。蔡國強の作品をみることは、そのトンネルを通り抜けることなのかもしれません。さらに中国という国家に話が及んだとき、彼は「ブラックホール」という言葉を使っています。トンネルでは越えられないときはブラックホールがある、と。それはどこに出るのかもわからない大きな危険をはらんでいます。それでも通らないといけない壁があるのでしょう。(蔡國強のトンネルにあたるのが、村上春樹の井戸といえそうです。)
その壁をモチーフとした代表作「壁撞き(かべつき)」。ベルリンの壁と同じ高さのガラスの壁に99匹のオオカミのレプリカが群れをなして、空を飛びながらぶちあたる。壁は壊れる様子もないけれど、オオカミは何度でも体を挺してぶちあたる。こころを揺さぶられずにはいられません。
広島の原爆ドームの上空に黒色の花火を打ち上げた「Black Fireworks」、火薬と導火線を使って万里の長城を1万メートル延長するプロジェクト、911後のニューヨークの空に虹を描いた「Transient Rainbow」…、時間を遡って蔡國強の制作作品を映しだすビデオの中には、世界各地でトンネルを掘り進む蔡國強がいました。大げさでなく、ノーベル平和賞にもふさわしい仕事だと思います。
最後に最も印象に残った言葉を…。
“中国政府が中国のすべてというわけではありません。中国の土地や、歴史の流れと文化、そしてこの土地から生まれた私自身もその一部です。“
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