仏像と木の交流 -古代一木彫像の樹種をめぐって- [講座]
2015年5月16日(土)
成城大学
仏像の樹種に関する公開シンポジウムに行ってきました。仏像がどんな木で作られているかなんて、今まで興味はなかったのですが、すごーく面白い講演でした。平安時代前期に多い一木彫像の樹種は、ずっとヒノキと考えられていたのが、森林総合研究所と東京国立博物館による科学的調査で、なんとカヤの木だったことがわかったそうです!カヤの木は顕微鏡で観察してみると「肥厚」という特徴的な構造が認められるとのこと。あの有名な神護寺の薬師如来立像や法華寺の十一面観音菩薩立像もずっとヒノキ製と考えられていたそうですが、木片の観察によって、カヤ製であることが確かめられたんですって。常識を覆す発見にワクワクしました。
それで、白洲正子の「木」(1987年刊行)という本をふと思い出して、読み直してみると、「カヤの木」は「碁盤や将棋盤にしかならない」ということと「最近、法華寺の十一面観音が檜ではなく、榧で造られていることを知った」とあるので、確かにこの本が書かれた当時は、まだ「ヒノキ説」が主流だったことがわかります。
でも、調査で樹種は明らかになっても、”ではなぜ、カヤの木なのか”という考察になると、シンポジウムの議論もあやふやでした。飛鳥時代に檀像が海外からもたらされて、でも日本には白檀の木がないため、最初は良い香りのするクスノキが用いられることが多かったそうです。その後、奈良時代に作られるようになったカヤの一木造の初出は唐招提寺の仏像。なので、鑑真が一木造の樹種をカヤの木に指定した、という説があるそう。鑑真の出身地である唐の揚州には、カヤの木が自生していることもこの説を裏付けるものの、中国には木造の仏像が残っていないので、確証にはならないとのこと。うーん、結局“ではなぜ、カヤの木なのか?”という問いの答えはわからないままです。
想像を広げて考えてみるに、群生して林を作るヒノキに対して、カヤは1本のみ散生していることが多いとのこと。だから、御神木となりやすく、一木造りに用いられることが多かったのではないかしら。ただ、シンポジストの先生方はだれもこのことに言及していなかったので、的外れかもしれません。まあ、こればかりはいくら考えても分からない。
それよりも、今回の成果のように、科学的手法を歴史研究に応用して、歴史の謎をどんどん解明していってほしいなぁ。生活の役には立たないかもしれないけれど、昔の人の思考を知ることは、決して無駄ではないはずです。
そうそう、今回の講演で紹介されていた井上正氏の「古佛」という本がとても面白そうでした。霊力の強い木造仏が取り上げられている本。高価なので、図書館で借りてみようかな。
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